広島高等裁判所 昭和60年(う)29号 判決
【主文】
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中九〇日を原判決の本刑に算入する。
【理由】
本件控訴の趣意は弁護人長尾俊明、同山下哲夫共同作成の控訴趣意書及び同補充書記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官池之内順二作成の答弁書記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。
これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
控訴趣意第一点について。
論旨は要するに、原判決は、原判示第二、別表(一)番号2において、「被告人は公安委員会の運転免許を受けないで、昭和五九年五月二五日午前一一時四五分ごろ、広島県東広島市西条岡町西条警察署前付近道路において、普通乗用自動車を運転した」と認定しているところ、右認定事実に対応する昭和五九年一〇月二九日付起訴状記載の訴因は、「被告人は公安委員会の運転免許を受けないで、昭和五九年五月二二日午前一一時四五分ごろ、広島県東広島市西条岡町西条警察署前付近道路において、普通乗用自動車を運転した」となつており、右認定事実と訴因とは公訴事実の同一性を有するとは認められないから、原判決には、審判の請求を受けた事件について判決しないで、審判の請求を受けない事件について判決した違法がある、というのである。
そこで検討するに、原判決が原判示第二、別表(一)番号2において、前記のような認定をしていること、これに対応する訴因が右のように記載されていることは、いずれも所論のとおりである。しかしながら、右訴因と原判決が認定した事実を対比すると、犯行の年月、時刻、犯行の場所等すべて同じであり、両者の相違は、犯行の日が前者においては「二二日」、後者にあつては「二五日」となつている点に存するにすぎず、基本的事実関係は同一であつて、右両者間に公訴事実の同一性があることは明白である。
次に本件の場合、訴因の変更が必要か否かについて考察するに、刑事訴訟法が訴因及びその変更手続を定めた趣旨は、審理の対象、範囲を明確にし、被告人の防禦に不利益を与えないためであると認められるから、裁判所は、審理の経過にかんがみ、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずるおそれがないものと認められるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、訴因変更手続をしないで訴因と異る事実を認定しても差支えないと解される(最高裁昭和二九年一月二一日判決、刑集八―一―七一参照)。これを本件についてみるに、記録によると、被告人は原審において、前記訴因を含めすべての起訴事実を認めて争わず、弁護人も同様で、専ら情状の立証に終始していたこと明らかであり、原判決が原判示第二の関係で挙示している被告人の検察官に対する昭和五九年一〇月二七日付供述調書によれば、原判示第二、別表(一)番号2の無免許運転をしたのは昭和五九年五月「二五日」であつて、警察の調書が五月「二二日」となつているのは誤りである旨(一〇四丁表)述べており、更に当審における被告人の供述によつても、起訴状の「二二日」の記載は誤りで、被告人としては「二五日」の無免許運転が審判の対象となつているものとして応待してきたことが優に肯認できる。そうすると、右犯行の日を五月「二五日」と認定したからといつて、なんら被告人の防禦に不利益を与えるものではなく、公訴事実の同一性を害しないことは既に説示したとおりであるから、原審が訴因変更の手続を経ないで前叙のような認定をしたことに違法はなく、これを目して、審判の請求を受けた事件について判決せず、審判の請求を受けない事件について判決したということはできない。
従つて、当審において検察官のした訴因訂正申立の許否について判断するまでもなく、論旨は理由がない。
控訴趣意第二点について。
論旨は要するに、被告人を懲役一年の実刑に処した原判決の量刑は、重きにすぎ不当である、というのである。
しかしながら、原審及び当審で取調べた証拠に現われた情状、特に本件は、昭和五九年二月窃盗、道路交通法違反(無免許運転)の罪により懲役一年、三年間執行猶予並びに罰金二万円の判決を受け、反省と更生の機会を与えられた被告人が、右判決確定後四か月もたたないのに、ドライバー等を用意したうえ、計画的に窃盗七件を敢行し(被害額合計約六六万九、五〇〇円、原判示第一)、また普通乗用自動車の無免許運転を二回反復し(原判示第二)、更に原判示第三のとおり、警察官から免許証不携帯等の被疑者として取調べを受けた際、無免許運転の刑責を免れるため、知人である数面俊二の氏名を詐称し、七回にわたり、同人名義の有印私文書を偽造、行使し、警察当局その他の関係者に多大な迷惑をかけたというもので、被告人の更生意欲の乏しさ、遵法精神の欠如は甚だしいというほかはない。このような本件犯行の回数、罪質、態様、被告人の前科歴、当時の行状等を併せ考えると、犯情悪質でその責任は軽視しがたく、窃盗事件については被害弁償がなされていること、及び勾留中の被告人の生活態度等所論指摘の事情を十分斟酌しても、原判決の量刑はやむを得ないところであつて、重きに失して不当であるとは認められない。論旨は理由がない。(なお、原判決六枚目裏六行目の「同年七月三日付」は「同年七月一〇日付」の、原判決別表(二)番号3の取調場所欄中「パーカー内」とあるのは「パトカー内」の、各誤記と認める。)
よつて、刑事訴訟法三九六条に則り本件控訴を棄却し、刑法二一条を適用して当審における未決勾留日数中九〇日を原判決の本刑に算入することとして、主文のとおり判決する。
(干場義秋 横山武男 谷岡武教)